Saturday, January 14, 2006

シナリオナビゲーションへのアプローチ

Ozgur教授が主張する”Modeling Engineering Design Thinking and Performance as a Question-driven Process"において、デザイナーへの発散及び収束する質問法によりデザイナーに気ずきを与え、新たなデザインの可能性を考えさせ、新たなデザインを創発させる手法は、KeyGraphの赤ノードやグループディスカッションという受動的な気づきの手法とは異なり、能動的な気づきを与える手法だと思います。
私が研究目的としているシナリオナビゲーションの手法の一つだと思いました。
データ結晶化の手法は、KeyGraphの赤ノードを活用して新たなシナリオを創発させる一段階進化した手法といえますが、このままだと受動的な手法で留まってしまうので、なんとか質問法と組み合わせ能動的なデータ結晶化手法による『シナリオ・ナビゲーション』に進化できないか、考え始めました。
私が、最初に思いついたのはデータ結晶化によって示された黒ノードのクラスター間とダミー赤ノードを注釈を表示して被験者に、「A黒ノードとB黒ノードを結ぶC赤ノードの関係からあなたは、どのようなシナリオが創発されますか?」のような質問をテキストファイルで表示して記述させるなどの方法です。
さらに、ポテンシャル・モデル図との組み合わせて、被験者の関心や認知度が高まり、良い質問法が加わることによって、新たなシナリオ創発を促す『シナリオ・ナビゲーション』ができるような気がします。
この時のデータ結晶化の提示とともに、被験者に適切なタイミングで適切な良い質問を与えることにより気づきが生まれる可能性が高くなるのではないかと考え始めました。

課題は、
1.被験者が、新たなシナリオを考察するときのタイミングをどのように決めるか。
  被験者のKeyGraphのグラフ図の視点の変化や発言の変化など特徴ある
  転換点が明確になれば、その転換点を一つのタイミングと考えることができ
  るかもしれません。
  →前回の実験で新たなシナリオを抽出するときに、赤ノードが減少する傾向
   にありますので、これが転換点のタイミングかもしれません。
2.被験者への発散及び収束する質問の内容をどのようにパターン化できるのか。
  →被験者がグループディスカッションで質疑応答をしながら、KeyGraphの
   グラフ図の解釈を深めていく過程で、新たなシナリオが創出される前の
   グループディスカッションの会話内容がOzgur助教授の主張する発散する、
  又は収束する質問の代用になっているかもしれません。

の2点が現在考えられます。

いよいよ、研究が面白くなってきた。

Friday, January 13, 2006

特許の新たなシナリオ創発に関する打ち合わせ

1月12日のシナリオ創発ワークショップのランチミーティングで、M氏と特許のシナリオ創発の実験を再考しました。
当初予定していた複数グループによる複数手法から得られるシナリオの質を比較評価する実験は、時期尚早であり、最初は目的を絞って実験したほうが良いとの結論に至りました。
まず、最初にKeyGraph上の環境データを理解しやすい方法を定めるために基礎実験を行う予定です。
1.特許データをベースにして、KeyGraphの黒ノードクラスターのみの共起グラフで、黒ノードクラスタ
  ーを増やしながらシナリオを創発する。最初は、2-4の黒ノードクラスター、次に4?8程度、最後に  
  8-16程度の三枚のグラフ図を提示する。
2.同じく特許データをベースにして、KeyGraphにて黒ノードクラスターを増やし、その時に黒ノードクラ
  スター間を結ぶ赤ノードを1つだけにしてシナリオを創発させる。
  上記1と同じ、3枚のグラフ図を提示する。
3.創発されたシナリオを実験後被験者に評価してもらい、シナリオの数、質を比較評価する。
  評価項目は、別途打ち合わせる予定。

その基礎実験に基づいて、上記の2.の手法によって理解しやすいことが確認できれば、KeyGraphとデータ結晶化ツールによる新たなシナリオ創発の実験に進む予定。
1.顧客訪問データをベースにして、被験者6人の2グループで実験を行う。
2.KeyGraphの黒ノードクラスターの粒度を徐々に細かくしていき、クラスター間の赤ノードを最少数
  にして提示する。最初は、2?4の黒ノードクラスター、4?8黒ノードクラスター、8?16黒ノードクラ
  スターの3枚を提示する。その3枚から被験者がシナリオを創発させる。
3.次にデータ結晶化を行い、上記の3枚にダミーノードによる赤ノードを加えて、3枚提示する。
  そのデータ結晶化させた3枚のグラフ図から被験者がシナリオを創発させる。
4.上記の2と3で創発されたシナリオの質の違いを被験者の評価で比較する。

最終の研究目的は、Eris助教授の質問法と組み合わせてデータ結晶化ツールを起用し、シナリオナビゲーションのような能動的に新たなシナリオを創発させるツールとプロセスを開発したい。

1月12日 シナリオ創発に参加して

シナリオ創発ワークションのオープニング後援をされたOzgur Eris助教授の"Modeling Engineering Design Thinking and Performance as a Question-driven Process"の講演は、非常に示唆に富んだ講演でした。
デザイナーに対して、Generative design questionsを発して、質問から新しい要求が生まれることに気づかせる。最初は、発散的なConvergent thinking/Factsに対して質問し、次に収束するようにDivergent thinking/Possibilityの質問をしていきます。このようなデザインプロセスによって、質問からデザイナーが気づき、新たなデザインが生まれます。
大澤先生が、チャンス発見のプロセスでは、関心の高いヒトが、チャンスへの転換点を迎える時に、KeyGraphによる赤ノードなど稀な事象に気づきチャンス発見をする。Eris助教授の手法をチャンス発見のプロセスに取り組むことで、チャンスへの気づきの確率を増大させる可能性があるとのコメントをされていた。

ヒトに気づきを与えるような良い質問は、どうすればよいのだろうか? 
ヒトがチャンス発見への転換点を迎えるタイミングを見計らい、適切な内容の質問を与える方法がこのプロセスにおいて非常に重要と思える。
複数の被験者がグループディスカッションを通じて新たなシナリオを創発させる過程とこの質問法は、受動的な方法と能動的な方法のように思える。
能動的な手法として、グループディスカッションにおいて適切な質問法を取り入れると更に質の高い新たなシナリオ創発を促す可能性が高くなると期待できる。Ozgur助教授やLaifer教授の論文を読んでみる事にしよう。

Tuesday, January 03, 2006

技術特許の新たなシナリオ創発について

今月、M氏と技術特許をデータベースにデータ結晶化を用いて、新たな技術特許のシナリオ創発の実験を行う予定です。

M氏は、最初に一番頻出度の高い黒ノードとリンクとのクラスタ(島)を一つ抽出して、概念を解釈する。一定の理解に達したクラスタを2分割し、細分化された概念の解釈とクラスタ間の関係をアノテーションを入れながら解釈する。このプロセスを継続して行っていき、細分化された複数の概念を示す認知図ができます。これらの細分化された複数の概念間の関係を特定することが、認知図の文脈の理解としています。

実験を行う事前準備の段階で、下記の課題が提示された。
1.特許のような整った文書では、多様な視点によるチャンス発見の余地が少ないのではないか?
  他の視点を含む文書をブレンドする必要があるのではないか?
  私の意見:文章のデータは確かにそのとおりであるが、被験者はこの技術特許に至るシナリオ創発の実験に参加しており、すでに各自が新たなビジネスの視点で考えた共通した経験をもっており、関心度のレベルが高い。その為、この実験によって更に新たなシナリオが創出されることが期待できるのではないかと推測される。
2.特許のどの部分をデータとして使うのか?
  私の意見:予備実験として、M氏の案に基づいてデータ作成をして、シナリオが創出されるのか確認後、結果がよくなければ再度考察することにする。 
3.可視化しながら、概念を構造化する場合に、トップダウン的にやると、初期のおおまかな構造で全体が決まってしまう。これで、いいのか?
  私の意見:榊原氏の研究成果は、逆で少ない頻出語からKeyGraphを示し、高頻出語に移管して いく過程で消滅する推移を観ながら、全体の文脈を解釈する方法の提案であった。 確かに、高頻出語から示すと確かに初期の大まかな構造で全体の構造が決まってしまう。 しかし、構造の細分化を進めることにより、全体の構造を構成する細部の概念要素が現れ、細部の概念の新たな解釈や細部の概念間の関係から新たなシナリオが創出できる可能性はある。すなわち、全体の構造から新たなシナリオ創発の可能性が制限されるとは思わない。
4.通常のKeyGraphや結晶化など複数グラフを同時に被験者に見せるだけで、いいのか?
  時系列で、理解の深まりのようなものを観測できないか?
  私の意見:表示するノード数の変化で、解釈の変化を測定できる。共起グラフ、KeyGraph、結晶化グラフの三種類のグラフ図を準備し、まずどちらの図が新たなシナリオ想起できるかを実験する。次に、結晶化グラフでノード数を変化させて解釈の時系列変化を示せばよいと考える。

更に、M氏との打ち合わせで、以下の実験条件が決められた。
1.情報量:情報量を等価とするため、ノード数を等しくする。
2.認知:認知を等価とするため、ノードの配置をできるだけ等しくする。
  条件:従来の実験からの経験上、100ノード位が被験者がグラフ図を観察して解釈ができる上限のようである。黒ノード50+赤ノード50を基準とする。共起グラフ→KeyGraph→結晶化でノード数を増やしながら(3ラウンドくらい)、シナリオの量と質の差分を追跡する。

3.評価:役立ち度、認識度、貢献度、合意度を測定する。
  条件:会議中に、シナリオのポジティブな評価を行って、盛り上がりを計測する。同時に、事後評価      として、冷静にシナリオの質を評価し、合意の度合いを測る。シナリオ創発のヒントとなったグラフ上の構造をマークし、後で解析する。

4.データ:特許のどの部分を使用するか、H氏が事前評価を行い、感触をつかむ。試しにやってみた        実施例だけでなく、実施例+従来技術という選択肢もある。従来技術については、事前に被験者にインプット可能なので、重要性は高くないとも予想される。次の段階として、ライバル特許をソースデータとして使用する。

5.実験:被験者6人で、1セッション30分くらいがいいところ。それ以上だと、集中力が途切れる。1日、3セッションくらいを実施する。12月後半から1月の実施を目指す。


上記の打ち合わせ後、大澤研究室で実験条件について説明したところ、下記の様々な指摘があった。
1.黒リンク数、赤ノード数をどう決めるのか?
  M氏:現在の結晶化では、人間の理解レベルに合ったクラスタ数とすべてのクラスタをつなぐグラフ       で、決まります。前者は、アニーリングをかけてHCIで収束させます。後者は、必要条件ですが、充分条件ではないとの指摘があります。この問題は、まだ課題が大きいようです。
2.クラスタをツリー状に分割すると、初期の分割で全体の構造が決まるとの指摘がありました。
  M氏:人間が理解を深めるフェーズでは、全体から個へツリー状に分割してよいと思っています。一方のシナリオ創発フェーズでは、問題がありそうです。実際に、現在の結晶化では、k-means, k-medoidsなどのクラスタリングの応用を検討してます。この場合、ツリー状にならず、グラフ上の不連続的な分割が起きます。つまり、(A1,A2)→(A1,A21,A22)とは限らず、(A11,(A12+A21),A22)も起きます。

3.特許のどの部分を使って、被験者からどんなデータを採取するか?
  M氏:検討が未熟のようです。再度、検討してみます。

この指摘を受け、M氏との打ち合わせ後実験目的を一つに絞ったシンプルな実験を1月に最初に行い、そこから目的に応じて実験を数段階に分けて行う方が良いとの結論に至った。

2006年1月1日フジサンケイに掲載 大澤助教授の「データ結晶化技術」

東大が新データマイニング ヒット商品・カリスマまでピタリ
FujiSankei Business i. 2006/1/1  TrackBack( 4


 初夢ではない。これは、未知の世界を拓く現実の開発だ。  企業が応用すれば、ヒットにつながる新商品を「無」から生み出せる可能性が広がる。商談やビジネスを有利に運ぶ、黒幕や、カリスマのあぶり出しにも効力がある。  そんなコンピューター分析技術が米空軍の協力を得て、東京大学大学院工学系研究科の大澤幸生(ゆきお)助教授と筑波大学大学院学生の前野義晴氏の手で開発されたのだ。  会議などの記録を基に「出席していないが陰で指示している人物」を浮かび上がらせるコンピューター分析技術で、議事録にまったく登場しない人物であっても「いるはずだ」と推測できるようになる、という。  大澤助教授らが開発したのは、企業が商品の売れ行きを探る手法として注目している「データマイニング」と呼ばれる技術を進化させたものだ。  その人物がいつ、どこで、どのような発言をしたかが予測でき、人物像にも迫ることが可能。今後、米軍が提供するシミュレーション用のテロリストデータを使って性能を検証する。  今までのデータマイニングは、会議の参加者のなかで話題の中心にいる「いかにもリーダーらしいリーダー」を見つけ出すことなどを得意としていた。  これに対して、多くのデータから、まだ発生していない未知の事象も導き出せるのが今回の技術だ。すべての会議にもう一人の人物がいると仮定し、ダミーの人物をコンピューター上に設定することでデータを可視化。このダミーと会議の出席者との関係を分析によって再現し、「ダミーの人物が実在するらしい」と判断する仕組みだ。  しかも、ダミーが、出席メンバーの誰とどのようにかかわっているかを推測できる。議事録から削除した人物や、本来会議に出ていてもおかしくない遠隔地などで指示している黒幕まで浮き彫りにできる。  大澤助教授は、「まだ世の中にないが、あれば売れるものや、今後、流行発信源となるカリスマを予測することにも利用できる」と期待している。                   ◇  ■ビジネスの勝敗握る開発  一連の耐震強度偽装事件で、さらに黒幕となる人物はいるのか。新開発のデータマイニング技術により、「関与した人物の会議内容が分かれば、探り当てることができる」と大澤助教授はいう。  新技術は、会議などの記録から「削除された人」や、まだ起きていない未来を予測でき、データマイニングの可能性を切り開くものといえる。  大澤助教授の過去の研究では、スーパーで菓子パンや総菜を買う人(独身)はビタミン剤を買うというような現象を発掘し、売り上げ向上に役立てている。  さらに、新技術では、ビタミン剤という概念がない場合でも、そうした栄養補助剤のようなものが売れそうだというビジネスチャンスを見つけ出すことができ、企業のマーケティング戦略における有力なツールとなりそうだ。  今後、無線ICタグ(電子荷札)などのさまざまなセンサーが身の回りに配置され、人間の行動記録がコンピューターに取り込まれていくという、ユビキタス社会が到来する。  このような“データの山”から、どれだけ有用な情報を掘り出せるかという「データマイニング能力」が、ビジネスの勝敗を分ける時代が到来した。(原田成樹)                   ◇ 【用語解説】データマイニング  大量のデータをコンピューターで解析し、その中に潜む項目間の相関関係やパターンなどを探し出す技術。購買履歴や顧客データを「鉱山」とし、金脈となる潜在市場を「採掘(mining)」する。米スーパー最大手ウォルマートが、レジの記録から紙オムツとビールを同時に購入する顧客が多いことを発見し、近くの売り場に並べて売り上げを伸ばした事例は有名。

Sunday, January 01, 2006

あけまして

あけましておめでとうございます。
2006年を迎え、研究者として新たな研究成果を出せるよう実務に関わる実験を実施したいと思います。
まだまだ社会人と研究者の両立が難しいけれど、時間を自分で作るもの、発想は時間に縛られないとの意気込みで頑張ります。