Tuesday, January 03, 2006

技術特許の新たなシナリオ創発について

今月、M氏と技術特許をデータベースにデータ結晶化を用いて、新たな技術特許のシナリオ創発の実験を行う予定です。

M氏は、最初に一番頻出度の高い黒ノードとリンクとのクラスタ(島)を一つ抽出して、概念を解釈する。一定の理解に達したクラスタを2分割し、細分化された概念の解釈とクラスタ間の関係をアノテーションを入れながら解釈する。このプロセスを継続して行っていき、細分化された複数の概念を示す認知図ができます。これらの細分化された複数の概念間の関係を特定することが、認知図の文脈の理解としています。

実験を行う事前準備の段階で、下記の課題が提示された。
1.特許のような整った文書では、多様な視点によるチャンス発見の余地が少ないのではないか?
  他の視点を含む文書をブレンドする必要があるのではないか?
  私の意見:文章のデータは確かにそのとおりであるが、被験者はこの技術特許に至るシナリオ創発の実験に参加しており、すでに各自が新たなビジネスの視点で考えた共通した経験をもっており、関心度のレベルが高い。その為、この実験によって更に新たなシナリオが創出されることが期待できるのではないかと推測される。
2.特許のどの部分をデータとして使うのか?
  私の意見:予備実験として、M氏の案に基づいてデータ作成をして、シナリオが創出されるのか確認後、結果がよくなければ再度考察することにする。 
3.可視化しながら、概念を構造化する場合に、トップダウン的にやると、初期のおおまかな構造で全体が決まってしまう。これで、いいのか?
  私の意見:榊原氏の研究成果は、逆で少ない頻出語からKeyGraphを示し、高頻出語に移管して いく過程で消滅する推移を観ながら、全体の文脈を解釈する方法の提案であった。 確かに、高頻出語から示すと確かに初期の大まかな構造で全体の構造が決まってしまう。 しかし、構造の細分化を進めることにより、全体の構造を構成する細部の概念要素が現れ、細部の概念の新たな解釈や細部の概念間の関係から新たなシナリオが創出できる可能性はある。すなわち、全体の構造から新たなシナリオ創発の可能性が制限されるとは思わない。
4.通常のKeyGraphや結晶化など複数グラフを同時に被験者に見せるだけで、いいのか?
  時系列で、理解の深まりのようなものを観測できないか?
  私の意見:表示するノード数の変化で、解釈の変化を測定できる。共起グラフ、KeyGraph、結晶化グラフの三種類のグラフ図を準備し、まずどちらの図が新たなシナリオ想起できるかを実験する。次に、結晶化グラフでノード数を変化させて解釈の時系列変化を示せばよいと考える。

更に、M氏との打ち合わせで、以下の実験条件が決められた。
1.情報量:情報量を等価とするため、ノード数を等しくする。
2.認知:認知を等価とするため、ノードの配置をできるだけ等しくする。
  条件:従来の実験からの経験上、100ノード位が被験者がグラフ図を観察して解釈ができる上限のようである。黒ノード50+赤ノード50を基準とする。共起グラフ→KeyGraph→結晶化でノード数を増やしながら(3ラウンドくらい)、シナリオの量と質の差分を追跡する。

3.評価:役立ち度、認識度、貢献度、合意度を測定する。
  条件:会議中に、シナリオのポジティブな評価を行って、盛り上がりを計測する。同時に、事後評価      として、冷静にシナリオの質を評価し、合意の度合いを測る。シナリオ創発のヒントとなったグラフ上の構造をマークし、後で解析する。

4.データ:特許のどの部分を使用するか、H氏が事前評価を行い、感触をつかむ。試しにやってみた        実施例だけでなく、実施例+従来技術という選択肢もある。従来技術については、事前に被験者にインプット可能なので、重要性は高くないとも予想される。次の段階として、ライバル特許をソースデータとして使用する。

5.実験:被験者6人で、1セッション30分くらいがいいところ。それ以上だと、集中力が途切れる。1日、3セッションくらいを実施する。12月後半から1月の実施を目指す。


上記の打ち合わせ後、大澤研究室で実験条件について説明したところ、下記の様々な指摘があった。
1.黒リンク数、赤ノード数をどう決めるのか?
  M氏:現在の結晶化では、人間の理解レベルに合ったクラスタ数とすべてのクラスタをつなぐグラフ       で、決まります。前者は、アニーリングをかけてHCIで収束させます。後者は、必要条件ですが、充分条件ではないとの指摘があります。この問題は、まだ課題が大きいようです。
2.クラスタをツリー状に分割すると、初期の分割で全体の構造が決まるとの指摘がありました。
  M氏:人間が理解を深めるフェーズでは、全体から個へツリー状に分割してよいと思っています。一方のシナリオ創発フェーズでは、問題がありそうです。実際に、現在の結晶化では、k-means, k-medoidsなどのクラスタリングの応用を検討してます。この場合、ツリー状にならず、グラフ上の不連続的な分割が起きます。つまり、(A1,A2)→(A1,A21,A22)とは限らず、(A11,(A12+A21),A22)も起きます。

3.特許のどの部分を使って、被験者からどんなデータを採取するか?
  M氏:検討が未熟のようです。再度、検討してみます。

この指摘を受け、M氏との打ち合わせ後実験目的を一つに絞ったシンプルな実験を1月に最初に行い、そこから目的に応じて実験を数段階に分けて行う方が良いとの結論に至った。

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