アメリカの認知心理学者のジェームス・ギブソン(James J. Gibosn)が、1960年代に完成した「アフォーダンス理論(エコロジカル・リアリズム:生態的実在論)」は、現在「人工知能の設計原理」や「人と機械のコミュニケーション」について認知科学者に注目されている理論である。
アフォーダンスとは、ギブソンが作った造語であるが、由来は良いものであれ、悪いものであれ、環境が動物に提供するために備えている「価値」のことである。事物の物理的な性質や知覚者の主観が構成するものではない。環境の中に実在する、知覚者にとって価値のある情報である。
ヒトは環境にあるそのアフォーダンスを探索し、知覚している。
ヒトが、一度しか行った事が無いような複雑な道をナビゲーションして目的にたどり着くことをするような場合、移動しているヒトが利用しているのは、移動に伴って現れる「ナビゲーションのアフォーダンス」である。ナビゲーションのアフォーダンスの一つの候補は、「ルートとルートのつながり目の見えが、移動に伴ってどの様に変化するのか」とい情報であることが明らかにされている。これは、「視るシステム」以外に「聴くシステム」などでも知覚できるアフォーダンスである。
盲人は、ルートとルートとのつなぎ目の「ひらける感じ」や「圧迫感がなくなる感じ」から転回点を知覚し、次のルートを決めている。
このように、ルートとルートをつなぐ個々の転回点は、移動にともなう動きの中に現れる独特の「変化」により、それ自体は形を持たない「変形の姿」や「異質性」から知覚される。
チャンス発見において、KeyGraphのグラフ図に表れる、稀な表出語であるが、高頻度語の塊でそのデータの主張を示す概念の島と他の概念の島とを結ぶ赤ノードの橋が、まさにこのアフォーダンス理論における変化において現れる「異質性」、すなわち「チャンス」を発見するための転回点と言えよう。
多くのナビゲーション研究では、表現されたものがそのまま「頭の中の地図」、「こころの表像」として存在し、ナビゲータは、実際のナビゲーションでもそれを参照しながら目的地に移動していると考えてきた。認知地図の研究者は、「ナビゲーターが見る環境には、目的までの道しるべを示すものは僅かしかない。だから個々の地点での見えをつなぐ地図がいるはずだ」と考え構想してきた。しかし、実際の世界においては「転回点」のなかにナビゲーションを可能にしている十分な情報がある。ナビゲーターがしていることは、それを知覚しつつ移動することであり、「地図」を思い浮かべてそれに従う事は無い。この理論から考えると、チャンス発見において探索された「チャンスへのシナリオ」を行動に移す時には、KeyGraphのグラフ図という「表現」を思い浮かべるのではなく、「転回点」である「赤ノード」を
不変項の「情報」として知覚し、行動に移しているいえる。
この理論をベースにヒトがチャンスを発見したり、新たなシナリオを創発させるようなナビゲーションシステムのデザインを考える場合、環境における事象と事象の転回点である異質性を知覚させるために、その異質性を示す動きや変化を強調する必要があると考える。
また、その異質性をどの様にデザインするかも重要な課題である。従来のKeyGraphの赤ノードだけでなく、データクリスタライゼーションのようなデータには現れないダミーノードを挿入し、変化を強調する手法も非常に効果があると考える。