Thursday, January 31, 2008

ピーター・センゲの「出現する未来」のU理論


「学習する組織 (Learning Organization)」のMIT教授 ピーター・センゲが、人格そのものの成長を促す企業や個人のあり方を「出現するう未来」にて説明しています。局所の幸福が最大で全体が不幸になるという現在のシナリオは破滅に陥ると考え、より皆が豊かになれる方法を模索し、その人格成長を前提とした問題解決の方法を「U理論」として本書で紹介しています。
この「U理論」とは、二元論的な判断を中止し、静かに全体を内省することで、より正しい行動が直感的に生まれ、結果として自然に、素早くできるようになるという考えです。
この方法はシンプルな3つのステップで構成されています。
第1ステップ(Sensing):世界と一体化すること。
 あなたが現在持っている知識・経験・信念・価値観・枠組みなどをいったん手放し(留保し)、あなたの前に起こっている現象の集まりを、できるだけ「ありのままにあるように」見て、「そのままに」聴きます。このとき既存の概念等による分析は避けます。
第2ステップ(Presensing):後に下がって内省すること。
 第1ステップの状態を保ちながら、静かに待ちます。閃きや直観としてもたらされる、そこからの答えを全面的に受け入れます。
第3ステップ(Realizing): 自然に素早く動くこと
 得られた答えを、積極的に活かしていきます。現状の詳細な分析・検証とともに、第2ステップでもたらされた答え、アイデアなどを使って、実際の活動(プロトタイプ)に生成していきます。そして実行を通して得られるフィードバックを「ありのままに」観察・検証し、行動を修正し、新たな活動をする。

U 理論の名称の由来は、この三段階の最初のSensing が、自己が世界へ下りて一体化してゆく感じであり、Presencingはその深い世界を感じ、最後に Realizing で上へ上へと上るという全体のイメージが、「U」という字を連想させることからきています。
3つのステップの Sensing, Presencing, Realizing はさらに各々三つの状態に分けられます。
Sensingは、
1.保留 - 状況に埋没している二元論的な判断を保留
2.転換 - 世界全体への視点・態度の転換
3.手放す - 我執などを捨てること。これは presensing にもかかわる
Presencingは、
1.手放す - sensingにもかかる。
2.受容
3.結晶化 - 気づき(Mindfullness)が明確に現れること。これはrealizingにも関わる
そして、最後の Realizing も同様に以下の三段階があります。
1.結晶化
2.プロトタイピング - 原型作り
3.システム化
Sensing と Presencing の中間の「手放すこと」と、Presencing と Realizing の中間の「結晶化」は、両方に含まれますので、全体としては 3 * 3 - 2 = 7 つのプロセスになります。このプロセスの中で、個人や組織の学習や成長がはかられ、複雑な問題にも有効に対処できるということです。

この理論の実践をする最初の過程であるSensingにおいて、多くの混乱、抵抗が生じます。その理由は、あなたが「これが私自身である」と思い込んでいる、あなたの価値観・信念・生活様式など(ビリーフ)が、あなたの取り組みの邪魔をする、「制限となる」からです。そのようなビリーフを一時的に保留するために最も有効な方法は、瞑想であると書かれています。

大沢研究室において、「チャンス発見」から新たに価値や価値観の吹き出し口を嗅ぎ出す「バリューセンシング」(http://panda.q.t.u-tokyo.ac.jp/~gutsu/workshop.html)という研究が提案されています。その研究におけるひとつの手法として、「イノベーションゲーム」が発案され、ゲームを通じて新たなアイデア、提案、シナリオが創造されています。その過程と比べるとU理論のステップにおける手法とは大きく異なる箇所があります。
すなわち、Sensingにおいて、U理論の提案する「瞑想」による世界との一体感ではなく、ゲームに参加する参加者がゲームという「仮想の場」において一体化し、参加者間が相互に理解しあう過程です。
「イノベーションゲーム」は、局所的な又は、仮想的な場における未来に出現する可能性のあるアイデアを創造します。「U理論」では、大局的な自然との一体化によって、大いなる目的に突き動かされて、自然と共に創る行動を行うという目的の違いが、大きく異なる要因でなないかと思います。


U理論における瞑想については、本書でも南懐瑾(ナン・カイキン、香港の中国語圏で非常に有名な学者。四書五経、仏教、道教などの東洋の学問の他、武術、医術も達人らしい)の瞑想の7段階との類似が指摘されています。
 意識
 停止
 平静
 静寂
 安穏
 熟考
 到達
違いは、「U理論」と比べると「実現 realizing」の過程が少なく、より世界の静けさを直視するところに重点が置かれていると言えるでしょう。
恐らく直感を有効に利用する、瞑想のパターンはどれも同じようなものになるのだと思います。
ヨーガと仏教の方法論も参考になります。
ヨーガ(8段階)
 ヤマ - 戒め
 ニヤマ - 心掛け
 アサナ - 姿勢・ポーズ
 プラナヤマ - 呼吸の制御
 プラティヤハラ - 意識の制御
 ダラナ - 集中
 ディヤナ - 熟考
 サマディ - 一体化
これは「U理論」や南懐瑾の瞑想と比べても、その以前の段階(戒めや姿勢、呼吸の制御など)が多いと言えるでしょう。
また、仏教の八正道は以下の通りです。
 正定 - 禅定の「定」。坐禅。正しい心身の定まり
 正念 - 正しい気づき
 正精進 - 正しい努力
 正命 - 正しい生活
 正業 - 正しい行い
 正語 - 正しい言葉遣い
 正思惟 - 正しい思考
 正見 - 正しい見識
これは、ヨーガと逆に、「実現 realizing」 の部分に重点が置かれています。そこで得た知見を元に努力して、生活を変え、行いを正し、最終的に思考もただして、正しい見識に到達しようというものです。
一方仏教では「三学」と呼ばれる修行方法も提唱されています。
 戒 - 戒め
 定 - 禅定。坐禅
 慧 - 智慧
これを含めるとヨーガと同様に戒めも大きなウェイトを占めます。三学は全体の道筋であり、「八正道」はその一部であり、戒めは当然守っているというのが前提です。
また、七覚支(bodhi-anga / bojjhanga)も参考になります。
 sati-sambojjhanga 念覚支 - 気づき。
 dhamma-vicaya-sambojjhanga 択法 - 法 Dharma として現象が分析される
 viriya-sambojjhanga 精進覚支 - 努力(ただし、自然に湧いてくるようなやつ)
 píti-sambojjhanga 喜覚支 - 喜び
 passaddhi-sambojjhanga 軽安覚支 - 心の静まり
 samādhi-sambojjhanga 定覚支 - 一般に禅定と呼ばれる状態。統一。
 upekkhā-sambojjhanga 捨覚支 - 落ち着く。
「U理論」「南懐瑾の瞑想」ヨーガ、仏教などで、直感知を利用しようという姿勢は同じながらも、視点や目標の差による微妙に違いがあります。

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